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ブルック大尉が渡航に関わったことは、米国のはからいで、表にはださないことになっていた。咸臨丸での航海は、日米修好通商条約の批准書を交換するという「日米国交記念」でもある行事だったわけで、いわば、「アメリカの思いやり」ともいえよう。実のところを言えば、咸臨丸の操舵は、このブルック大尉の指揮と、その部下10名による航海だった。

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咸臨丸での渡米。この航海を計画中に、たまたまブルック大尉は日本にいた。太平洋の測量調査で日本に立ち寄っていたのだ。このとき、ブルック大尉、35歳。急遽、ブルック大尉ほか部下10名とともに咸臨丸に乗り込む事となった。名目は、技術アドバイザーである。

咸臨丸は、洋式のスクリューを装備する船として、日本初の軍艦であった。幕府の軍艦となったのが、長崎海軍伝習所の練習艦となった。この第一期生に勝海舟がいる。この咸臨丸で、勝は航海術や砲術などを学んだ。咸臨丸は、排水量620ﾄﾝ、全長４９m、全幅が９m弱の、３本マストの帆船である。100馬力の蒸気機関を有していた。
 

勝海舟は、長崎において約２年、一応オランダ語のエキスパートとして、航海術を学んだ。教師は、オランダ軍人、「ホイセン・ファン・カッテンディーケ（ Huijssen van Kattendijke）である。長崎海軍伝習所は、２年で閉鎖。軍艦操練所として江戸・築地に移転された。ここで1859年、勝海舟は砲術教授となっている。勝が、どれほど航海術の実地訓練を受けたか、記録はない。しかし、ほとんど机上の講義で終わったのではないかと想像できる。しかも、外洋初航海前の２年間、ブランクもあるようだ。

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帰路は、サンフランシスコを出て、ハワイ経由で閏（陽暦６月２３日）に浦賀へ帰港する。帰路は日本人だけの航海だった。往路とは違い、波も荒れずに順調だったという。

終わりに、ブルック大尉がみた勝海舟の印象をあげておこう。
勝麟太郎は大変小柄であるがよく均整がとれ、たくましく身軽である。鋭い見透すような目、鉤鼻（ｶｷﾞﾊﾞﾅ）、やや小さいあご。歯を合わせたまま話す。彼はなかなか活動的である。手すりの上に飛び上ったり、索具にのぼったりする。感じのよい顔立ちで、決して機嫌が悪いという事がない。彼は航海中ほとんど船酔いしていた。〔書籍：「勝海舟」 著者： 勝部真長　222ページ〕
ブルック大尉は、船室に閉じこもった勝に同情をもったようだ。しかし、科学者である。その行動や言葉から人を見る目はおのずと厳しいはずである。そのブルック大尉が、勝の人柄を褒めているのだ。これは注目に価するだろう。